電子材料工学研究室
 
 熱的定常状態について調査するために、極めて遅い速度でコンタクト同士を離すならば、通電によって電極で生じる熱が定常状態を保つであろうと考えて、低速開離装置を開発しました。図5の写真は、長さ1[]の片持ち梁を利用して開発した装置の写真です。電極の動きを正確に推定できるように機械的な精度を重視しました。
コンタクト(電気接点)現象は、固体・液体・気体の現象を含みます。コンタクト現象の探求は、科学の探求です。
●コンタクトはスイッチやコネクタなどの接触部です。小型・長寿命・高信頼性などの技術的な性能アップがコンタクトに求められています。
● コンタクト現象の解明は科学・技術の進歩につながります。
●これまで、石田研究室では、コンタクト現象の解明に関する基礎研究をしてきました。
●研究目的は、スイッチの開離時に発生するアーク放電とアーク放電発生前の現象の関係を調査することでした。アーク放電は強い発光を伴う気体放電です。アーク放電はコンタクトに消耗をもたらす大きな原因です。そのため、アーク放電現象の解明が必要であると言えます。
● 現象解明の方法は測定です。現象の関係を調べる方法として同時並列計測が有効です。 この方法を実現するためにコンピュータが威力を発揮します。
●開発した同時並列的自動計測システムの外観写真を図1に示します。三台のコンピュータはお互いに連絡をとりながらタイミングをみて計測器やモータコントロール回路に指令を出します。
片持ち梁を利用して開発した低速開離装置  
図6片持ち梁のイメージ図
微小接触部
図8 金属同士の接触部
金属の表面には凹凸があります。
金属同士を接触させるとき、接触面の一部が接触します。スイッチを閉じるとき、図8に示すように、微小な接触部を通って電流が流れます。粒子の細かい研磨紙で接点電極表面を加工しても、図8のような接触になります。
 
片持ち梁の自由端を動かす装置(アクチュエータ)
図8パルスステージによる駆動
   (ディジタル開離)
図7ゼンマイ式回転装置とマイクロメータによる駆動(アナログ開離)
低速開離時に発生する
微小な電気的橋絡(ブリッジ)の観察
 図6に片持ち梁のイメージ図を示します。片持ち梁の自由端の変位Dが小さいときに、梁の固定端から距離lの位置では自由端の変位が減衰して、その値はd(式(1))になります。自由端の変位を電極の変位に換算することができます。このことによって、片持ち梁を利用した装置は、微小な変位を精度よく与えることができます。変位を小さくしたいならば、電極の取り付け位置を固定端側に近づければよいのです。実験は、変位の減衰率1/30で行われました。
図1同時並列自動計測システム 
●測定されたデータは可視化され、図2に示すように諸量間の比較が可能です。もちろん、諸量間の関係をさらに詳しく調べることもできます。
アーク継続時間・接触抵抗・アーク消滅ギャップ・ブリッジ消滅ギャップが開閉動作毎に同時並列的に測定されました。
●実験条件を変えて測定を繰り返して行いました。
コンタクト開離時のアーク放電現象とアーク放電発生前の現象に強い関係がみられました。
 
アーク放電関連諸量の同時並列計測
図2 測定されたデータの例(諸量の比較)
●コンタクト開離時のアーク放電が発生する前の接触電圧波形の観察をしてきました。
●開発した開離装置がコンタクト材料の特性を調査するための新しい開離方式の装置であると認識されました。
●この開離では、図3に示すように、電極がディジタル的に、つまり、0.5μm毎に離れて止まります。この動作を繰り返して電極同士がマイクロステップ的に離れていきます。
●接触電圧波形がディジタル開離の影響を受けました。
●電極が微小に0.5μmだけ動くと熱的に過渡状態になりますが、電極が止まることによって熱的に定常状態に近づきます。つまり、段階的な温度での熱的定常状態から次の開離が行われますので、高温下における材料の特性を調査することができると期待されます。
●図4に示すように、接触電圧波形が凸形です。接触部の熱的状態が各ステップ開離の開始時点から過渡状態を経て定常状態に移行することが推察されました。
 
ディジタル開離(マイクロステップ開離)と接触電圧波形
片持ち梁を利用した低速開離装置の開発
(50ナノメートル/秒)
 片持ち梁の自由端をマイクロメータで動かすことによって固定端側に取り付けた接点電極を低速で開くことができます。 低速回転速度用のアクチュエータでマイクロメータの回転軸をまわすことによって、50ナノメートル毎秒(nm/s)の低速で電極を動かすことができました。 この開離速度は、熱的定常状態を保つためには十分に遅いといえます。 なお、開発の当初は、図7に示すようにゼンマイ式の低速回転機を使っていました。図8は、ディジタル移動装置(0.5μm毎に移動が可能)で片持ち梁の自由端を動かすアクチュエータを取り付けたときの写真です。約17(nm)毎に電極を動かすことができます。
新現象の発見
静的接触電圧の時間変化の観察
開離時に発生するブリッジが、静的接触の初期状態の影響を受けることが考えられます。現在、静的接触状態における接触電圧の変化を観察しています。
 
科学技術学部 知能情報システム学科
 
石田研究室の紹介
(研究の概要)
(μm)
図3 ディジタル開離(マイクロステップ開離)のイメージ
図4 ディジタル開離時(マイクロステップ開離時)の接触電圧波形の例
Hiriyuki Ishida, Masanari Tanuguchi and Tasuku Takagi:” Observation of Contact Voltage by Using Micro-Step Separating System in Very Slow Opening Ag and Pd Contacts”, proc. of the 21st International Conference on Electrical Contacts, pp.238-241(September 2002) Zurich, Switzerland
 ( p.240 Fig.7 の抜粋)
 低速で電極を離していくとき、図5に示すように、電極同士の隙間(ギャップ)に光らない微小な橋絡(ブリッジ)が安定して存在することが、本研究によって初めて観察されました。図では、通電の全電流が一つのブリッジ(直径20μm、長さ20μmの円柱状橋絡)を通って流れています。従来の知見では、開離時に溶融した電極金属が間隙に押し出されて過渡状態として光るブリッジが形成されるといわれていました。この光らないブリッジが安定して形成される条件を見出したことが、今後、コンタクト現象を解明していくにあたって大きな助けになることが期待されます。
図5 コンタクト電極間に形成される光らないブリッジの写真
Yoshitomo Watanabe, Hiroyuki Ishida, Masanari Taniguchi, Hideaki Sone, Hiroshi Inoue and Tasuku Takagi : “ Observation of Contact Bridge Generating at Extremely Slow Opnening Speed “, Thechinical Report of IEICE, EMD2004-118, pp.37-40, (Mar. 2005 ), p.38, Fig.5
コンタクト間に単一のブリッジが成長する前の初期状態の調査